ボクは根がお調子者である。その場の雰囲気で結構いい加減なことをいう。自然ガイドなので基本的には科学的な根拠のある説明を心掛けている。しかしその場の雰囲気でつい口が滑って後で調べると違っていることがあって一人赤面するが後の祭り。
お客さん「今日は寒いですね。さすが北海道」
ボク「いえいえ今日はあったかいほうですよ。こんなもんじゃありません」
お客さん「一番寒いのはいつ頃ですか」
ボク「大体1月中頃から2月にかけて2週間ぐらいすごく寒い時期があります」
お客さん「マイナス何度ぐらいになるんですか?」
ボク「大体-20℃以下になります。阿寒湖温泉だと-30℃以下になります。30℃以下になるとちょっと次元が違います。ハイ。」
コロナ禍で科学的根拠の重要性が叫ばれている。本当に一番寒い時期はいつ頃なのか気象庁の過去データで調べてみた。
月毎の過去30年間の平均値で見ると一番寒かった月は1月が19回、2月は11回で年間の中では1月が一番寒い月となる。次に日毎の平均値を見てみると最低気温が一番低い期間は1月28日から2月2日までの六日間である。最低気温平均-11.4℃であるが、この前後も0.1℃単位の誤差なので-11℃以下になる1月21日から2月7日までのおおよそ2週間強が一番寒い期間と言っていいのではないか。中でも日平均気温が-6.1℃を記録している1月25日から1月29日までの五日間が1日を通して最も寒い時期になる。
次に観測史上日最低気温のベスト10を見てみると過去30年間で釧路の最低気温は1922年1月28日に記録された-28.3℃である。阿寒湖畔では2019年2月9日に記録された-30.7℃である。
ボクのいい加減さを検証してみると<1月中旬から2月にかけて2週間ぐらいの寒い期間>はほぼイイ加減である。最低気温が20℃以下も間違いない。ただ阿寒湖畔に関して言えば最低気温も-30℃そこそこなので、ちょっと大げさな話である。ちなみにボクは2010年から2014年までの5シーズン阿寒湖温泉で生活していたがこの間に-30℃以下の記録はない。しかしボクの中では-30℃以下の暮らしは体験済みのことになっている。いい加減である。
さてこの時期に釧路でしてはいけないことは自宅を離れることである。複数日にわたって自宅を離れることはご法度である。2006年1月20日から24日まで甥っ子の結婚式で名古屋に行きその足で熊野古道を歩いてきた。自宅に戻ると何か雰囲気が違い不吉な予感がした。水道の元栓は止めて行ったのだが水が出ない。そのうち台所の下からじわじわと水が滲み出てきた。トイレに行って驚いた。便器の下から水が滲み出て白い粉が散らばっている。その粉の根元をたどるとなんと便器が割れている。元栓は閉めたのだが建物の中に残っていた水が凍結し管を破り漏水状態になった。水回りの配管をはじめ、便器、湯沸かし器が全滅し、旅行費用の倍ほど復旧費用にお金がかかった。以降、我が家の家訓「1月、2月に旅行はご法度。水道の元栓を止める場合は管に残った水を全て排水すること」その技術を身につけるために水道屋さんの指導を受け、マニュアルを作った。
阿寒湖温泉に住んでいた時は最低気温が-20℃をこすとスケート大会の日は気温が上昇するまで競技が停止された。阿寒湖畔は内陸で山に囲まれた湖の辺なので冬は風が弱い。しかし、-30℃というのはやはり体感としては次元が違う。漁業協同組合の-50℃の冷凍庫から-40℃の冷凍庫に移動しただけで暖かくようなもので、顔の表面水分が凍結するような感覚がある。
しかし体感温度というのはまた別で、強風下の-10℃より無風の-30℃の方が過ごしやすい。風速1m毎に体感温度は1℃下がるといわれてるので-10℃の風速20mの強風下では体感温度は-30℃になる。
以上は釧路に住んでいる人の側の話で、観光で最も寒い時期に釧路を訪れるというのもその時期ならではの風景や体験をすることができるお勧めの時期なのだ。
気嵐(けあらし)は釧路市内でいえば陸上の冷たい空気が海へゆっくりと流れ出し、釧路川が凍結し河口付近の海面の水蒸気を冷やして蒸発させ、霧(気嵐)が生まれる現象。気嵐は北海道の方言だそうだが、気象用語では「蒸気霧」。つまり水温より外気の方が冷たいので蒸発し霧が立ち込め幻想的な風景を作り出す。これは川霧ともいって湿原を流れる釧路川流域でも川沿いに立ちこめる現象が見られる。
ダイヤモンドダストという空気中の水分が凍結して朝日にあたって空気がキラキラ光って見える現象もある。最近阿寒にする仲間が熱いお湯を散布してそれが固体化する現象を写真にアップした。ボクが幼かった頃は銭湯に行った帰りだとか濡れたタオルをぐるぐると空中で回すといきなりカチカチになったものだ。人工的な遊びも進化している。
寒さが苦手な方にはお勧めしないが、北海道らしさを体感するなら最も寒いこの時期もお勧めである。ちなみに齢をとるとだんだん体感も鈍くなってくる。暑さや寒さに関して鈍感になる。お客様の安全対策で欠かせないのは夏の熱中症、冬の低体温症であるが、わが身において最も気をつけているのは低体温症である。自分の感覚を過信すると危険である。そもそも体感がズレているという前提にたって、備えたいとおもう今日この頃。