第十一巻 ③ネイチャーツアーの適地~2

【第十一巻】落石から納沙布まで
バードウォッチャーは極東を目指す

扉写真は納沙布岬に寄せる流氷。上の写真は単眼鏡で望む国後島のロシア正教会。

▶納沙布岬に立つと目の前に根室海峡、その背後に歯舞・色丹・国後の島々が見える。少し目線を右側に振ると、そこはもう太平洋。いつも、根室海峡は太平洋なのか、オホーツク海なのか、疑問に思っていたが、どうやら区分としてはオホーツク海域に含まれるらしい。
根室半島の特徴をひと言でいえば「特異な自然文化エリア」ということになるかもしれない。野生動植物だけではなく、北方領土や知床半島、そして大海原の景観眺望、アイヌや先住民文化に彩られた史跡等々、根室は多彩なウォッチングエリアである。
ボクは野鳥ガイドで根室に行くことが多いので、おすすめのバードウォッチングサイトを紹介したい。


▶落石港からはネイチャークルーズが運航している。6月から7月にかけてエトピリカの繁殖シーズンにはユルリ島周辺で、このアイヌ名が標準種名になっている麗しい鳥に出会えるかもしれない。もう1種類アイヌ名が種名になっている鳥がケイマフリである。ケイマフリ(kema-hure足が・赤い)は、真っ赤な足をしている。ケイマフリは冬羽と夏羽が大きく変化するので年中運航しているこのクルーズは〝とことん野鳥ファン〟にはありがたい。ただ小さな漁船を使っているので波が高くなると欠航するという、〈自然との折り合い〉に付き合わなければならない。
港めぐりはイコール水鳥めぐりである。花咲港は根室半島最大の漁港であるが、野鳥を見るのにも適している。ボクは市職員時代8年間、釧路港の管理の仕事をしていたので、港のことに関しては少々詳しい。それなりの大きさの港は一番奥まったところに船揚場という船舶修繕のための引揚施設がある。船を揚げるので海底から斜路が引かれている。このため浅い水際があるので、水草を求める淡水ガモは船揚場の周辺に集まる。


▶港の岸壁はそれぞれ水深が微妙に分かれているが、通常は港の出口側が深くなっている。潜水して魚を餌にしている海カモ類はこのエリアに集まる。同じカモ類でも警戒心が強い鳥は、出口周辺から港の外にいることが多い。防波堤に上がって港の内側と外側を単眼鏡から眺めているとそれぞれの鳥の好みの場所がわかる。古くからの自然地形を活かして出来た港は、たいがい海にせり出した岬の入江に造られるので、港の脇に断崖や岩場がある。花咲港の横にも岩場があり、冬にはオジロワシやオオワシ、ハヤブサなども見ることがある。ただ港は産業施設なので、立ち入り禁止区域やトラックなどの車両が行き交うので、十分注意が必要だ。
▶納沙布岬には灯台の先にハイドが設置された。現在の我国領土内でいえば、最東端の駅が東根室駅。最東端の工作物がこのハイドである。ここでは海峡を行き来し、国境を自由に往来する海鳥たちを観察することができる。
ラッコやアザラシなどに出会うこともあるし、通常は外海でネイチャークルーズで見る機会のあるアビ、オオハム、ウミガラスなどを観察できる。渡りの季節だと海鳥ファンにはたまらない鳥見スポットである。
お客さんを案内するときは双眼鏡はもとより、単眼鏡は必需品である。単眼鏡で鳥だけでなく北方領土のウォッチングも根室ならではである。貝殻島の灯台は有名であるが、国後島のロシア正教会なども見ることができる。

「寛政の蜂起和人殉難供養碑」(納沙布岬)


▶足元に目を移せば、納沙布岬にはいろいろな碑が建っている。ひとつだけご紹介すると「寛政の蜂起和人殉難供養碑」がある。
寛政元年(1789)「クナシリ・メナシの戦い」で命を失った和人71名の供養碑である。誰が作ったのか不明だが、墓碑には文化9年に作られたとされている。この碑は明治45年に納沙布の近くの珸瑤瑁港で発見され、現在の場所に設置された。墓標はほとんど読めないが『寛政元年五月に、この地の非常に悪いアイヌが集まって、突然に侍や漁民を殺した。殺された人数は合計七十一人で、その名前を書いた記録は役所にある。あわせて供養し、石を建てる』と記されているそうだ。「非常に悪いアイヌが…」というところが起因してると思っている見方と、一方、解説板を設置している根室市教育委員会は「やむなく蜂起し…」と書いている。
このクナシリ・メナシの戦いで蜂起したアイヌは、その後、松前藩により鎮圧され、ノッカマップ(根室半島の北側オホーツク海沿い)で蜂起に関わったアイヌ37名が処刑された。
毎年アイヌの人々によってノッカマップでカムイノミが行われている。阿寒のアイヌコタンから参加している仲間に聞くと、ノッカマップの後、納沙布岬のこの碑でもカムイノミを行うそうだ。16㎞先の国後島と、眼前の供養碑の解説に目を凝らし、歴史の遠近法で古のアイヌと和人、そしてロシアとの関係性に思いを馳せるのも根室ウォッチングの魅力の一つである。(続く)