トビか、トンビか?!~凸凹WABISABI自然ごよみ/2

凹型の尾羽が特徴。トビの由来はとび職が使う鳶口という引掛け道具の先端が鋭い嘴に似ているところからという説

 釧路にとって1980年代は黄金の10年ともいえる時代だったのではないか。ラムサール条約に釧路湿原が登録(80)され、国立公園の指定(87)で観光が産業基盤の一つになるとともに、マイワシなどの大漁が続き釧路港は連続水揚げ日本一(79~90)、百万トンの大台も超えた(83)。
 この時期、ボクは釧路市役所で魚揚場に勤務し、毎日、釧路港の水揚げを見ながら仕事をしていた。圧倒的なカモメ。カラスやワシに交じってトビもいたに違いないがどうも印象に薄い。あれから30~40年が過ぎ、自然ガイドになってたまに港に魚ではなく、鳥を見に行く。若い時は全く興味もわかなかったが、カモメは1種類ではなくて、10種類ほどもいて、カラスもハシブトガラスとハシボソガラスがいて、冬にはひょっとしたらワタリガラスもいるかもしれず、海鳥も沢山、港内にプカプカ。今は魚の姿より鳥の姿の方が目に付く。興味のないものは眼が向かないとはいえ、ボクは露骨にその傾向が強いかもしれない。

 トビは身近な鳥だが、猛禽類としては勇猛果敢にはほど遠く、ゴミあさりやあぶらげをさらうのが得意な、しょぼいイメージが付きまとう。主役というより脇役、でも渋い脇役という感じではなく、なかなか名前が浮かばないバイプレイヤーのような…。
 コロナ禍で休業中のなか、トビを探しに港に出かけた。冬場の海外からのバードウォッチャーは、1にオオワシ、2にタンチョウ。以下、シマフクロウ、エゾフクロウ…。自分たちのフィールドではお目にかからない鳥が目当て。よって、我々には見慣れた鳥でもお客さんには珍しい鳥というのもある。
 我々が見慣れているトビは英名はBlack Kiteだが、欧州ではRed Kiteが主で、黒は稀少。きっとユーラシア圏全域に分布するオジロワシより珍しい鳥なのかもしれない。

 啄木の詩に「港町 とろろと鳴きて輪を描く 鳶を圧せる潮ぐもりかな」と釧路滞在時に釧路港を詠ったとおもわれるものがある。ピ~ヒョロロ、ピーヒョロロと鳴く声がトロロに聞こえるのが啄木風。さらにトビが主役かとおもいきや、その背後にある「潮ぐもり」が主役で、いつのまにかトビは背景に沈んでいくあたり、さすがバイプレイヤーの役どころを見抜いた啄木の確かな眼。
 普段は目立たないがいざとなったら鋭い嘴で一撃! とおもわせながら今日もトボトボと餌を探す日々。トビに自分を重ねて振り返る、なぁ~んて哲学的な心持ちは一切ないのだが、いつになったらガイドを再開できるのだろうとおもいながらトビを見つめていた。そして考えた。なんでトビを探しにきたんだろう?