第十一巻 ①英国で野鳥の宝庫をPR

【第十一巻】落石から納沙布まで
バードウォッチャーは極東を目指す

扉写真は納沙布岬に寄せる流氷。上の写真はブリティッシュ・バードウォッチング・フェア(BBWF)の釧根ブースで解説する筆者。

▶ボクは根室観光協会の会員である。何故、釧路のボクが根室なのか。事の成り行きは以前の職場であった釧路市役所の観光振興室に遡る。
ボクはインバウンド誘致の仕事をしていた。21世紀に入って誘致は本格化し、台湾・韓国・香港をメインに団体観光客がチャーター便を使って道東地方にやってきた。〈2001年宇宙の旅〉ならぬ〈2001年道東の旅〉である。
観光客のほとんどは釧路・阿寒・川湯・知床という、いわゆる温泉観光地の滞在が中心であった。誘致を担ってきたのは、官民連携で空港の国際化を推進する釧路空港国際化推進協議会という組織である。メンバーには根室管内の観光関係者も含め、道東一円の自治体や経済団体も加盟していた。
ボクは誘致担当だったので航空会社や旅行代理店の関係者を根室、中標津などにも案内し紹介していたが、お客さんの方はやはり有名な温泉地に惹かれていた。あまりにも誘致実績に格差があったので何とかならないものか、と思案していたところに、ANAの在英国旅行代理店の新谷耕司社長が釧路市の観光振興室に英国からはるばるやってきた。
▶新谷さんはヨーロッパ駐在の日本人を中心に諸外国向けのツアーを企画催行している会社の責任者であった。同時に、とびっきりのバードウォッチャーで、道東には何度も足を運んでいる熱心なバーダーであった。確かに根室・釧路は日本で記録された野鳥約6百種の内、350種ほどが観察されている国内のバーダーには知れ渡った〝野鳥の楽園〟である。
氏曰く「道東の探鳥地としての魅力をヨーロッパや世界のバードウォッチャーに紹介したい」。その熱意は並々ならぬものであった。バードウォッチャー誘致であれば、一般観光客がこれまであまり足を向けなかった根室や野付、羅臼と、釧路のタンチョウも併せて道東のネイチャーツアーの魅力を発信するには好都合。協議会も何とか説得し、これまではアジア圏の航空会社や旅行代理店にプロモーションするのがメインだった活動の中に、英国での世界最大のバードウォッチングフェスティバルであるブリティッシュ・バード・ウォッチングフェア(以下「BBWF」)への参加が盛り込まれた。

BBWFは世界最大のバードフェアで世界から誘致に来る地域、代理店をはじめ芸術・文化・保護活動の団体など約4百のブースに旅行関係者から一般市民まで集う。


▶近年、道東のネイチャーツアーの魅力は世界的に評価されてきている。アドベンチャー・トラベルの誘致も進められており、にわかにネイチャーツアーのデスティネーションとして欧米の旅行代理店やツーリスト達にも注目されてきたが、その先駆けとなったのはこのBBWFへの参加であった、とおもっている。
BBWFには2005年から出展し、ボクも最初の年に参加した。しかし、釧路空港国際化の主軸は東アジアのチャーター便誘致だったので協議会が中心となった参加はできなくなった。
けれどもこの活動は、根室を中心に道東の自治体や霧多布湿原トラスト、釧路市タンチョウ鶴愛護会などの民間団体が参加し、10年間続けられた。
この間、新谷さんの筋金入りぶりはパワーアップ。ANAを早期退職し、なんと根室の観光協会に就職。根室に単身赴任となった。観光協会では探鳥地としての受け皿の魅力をアップするために、観察小屋(ハイドという。hideは「隠す」という意味)の設置や、海洋クルーズの運航開発、根室バードランドフェスティバルの開催等を手がけた。ハイド作りは本場英国から図面を取り寄せるこだわり。冬鳥観察が最適な真冬に根室を訪れたい方にとって、身を切る寒さの中で野鳥観察をするのはそれだけで試練だ。観察小屋ができたことで自分の身を寒さから守るとともに、野鳥にも無用なプレッシャーを与えない、そういうバードウォッチングの本格的な楽しみ方ができるようになった。現在、根室には半島各所に5箇所のハイドがある。
クルーズは落石の漁業協同組合と協働し、一次産業と三次産業の連携事業として地域振興にも貢献した。年間クルーズ利用者は、コロナ禍の前では半数以上が海外からのお客さんという盛況ぶりで、成果も着々と上っている。(続く)

根室市民の森ハイドで快適にバードウォッチング