「自然と人の共生」カテゴリーアーカイブ

釧路湿原の外来植物駆除のイベントに参加しました

kirakotan02-20150523

私が所属している「NPO法人釧路やちの会」の社会貢献事業として、5/24に釧路湿原キラコタン岬の外来植物オオアワダチソウ駆除をおこないました。市民百名が参加、1時間30分にわたってオオアワダチソウの若葉を根から駆除したのですが、これがなかなか大変。根がライナーという地中で横に張っていて根こそぎ取るのはちょっと掘り返さなくてはなりません。キラコタン岬は先端が文化財指定地区なのですが、区域内にも外来植物は入り込んでいるようで、駆除作業は生態系維持のためにも欠かせません。

トヨタグループと道新の企業メセナでもあります。
トヨタグループと道新の企業メセナでもあります。
これがオオアワダチソウです。細葉で互生。
これがオオアワダチソウです。細葉で互生。
キタキツネも様子を見に来ました
キタキツネも様子を見に来ました
結構な収穫量です。少しは環境改善したかなぁ。
結構な収穫量です。少しは環境改善したかなぁ。

 

 

 

 

 

ふんだり、けったり <旅する阿寒>第4話

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欲張りなクマ神様はサケを一杯籠につめて(人形劇「ふんだり、けったり熊神様」より)

「ふんだり、けったり」

自然ガイドで常に気をつけているのは、お客様の安全。自然は私たちに様々な恵みをもたらすとともに、大きな危険も孕んでいる。
そんな私の頭の片隅には常にヒグマが生息している。北海道では、わが国最大の陸棲哺乳類ヒグマの存在をぬきに自然とは付き合えないのである。
私がはじめてヒグマに遭ったのは二十代半ば、仲間と行った山開け前の羅臼岳登山であった。裾野をまきながらもくもくと登っていた時、上から小型のヒグマが走ってくるではないか。二番手を歩いていた私は、先頭の友人が襲われるとおもい、下の仲間の方に向かって逃げた。幸い、互いの存在に気づき、ことなきを得たのだが、私の方は、それ以来、しばらくの間、ヒグマがトラウマとなった。

阿寒湖生活では五年間に三度対面した。「やっぱり阿寒はヒグマ多いんだねぇ」とおもわないでほしい。阿寒湖温泉の住民でも、ヒグマに会ったことのある人は少数派である。阿寒の森を管理している前田一歩園林業の職員でもヒグマに会ったことのない人は大勢いる。

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色気にも弱いクマ神様

私が三度も会ったのには、それなりの理由がある。釧路市は、環境省、警察、猟友会、前田一歩園、営林署などとヒグマの対策会議を組織している。ヒグマの出没情報があると会議が召集され対策が検討される。必然的に、出没地や周辺の見回り業務も発生するので、見る可能性は高まる。
阿寒湖温泉では、春から初夏にかけて出没情報が多くなる。釣り人や通行車輌の運転手、地域住民等からもたらされるが、その多くは小型の親離れ早々のヒグマか、親子連れである。
数年前、生活道路に若グマが出没し、会議が召集された。阿寒湖温泉は阿寒国立公園のなかにある街なので、畑や牧草地といった耕作地が存在しない。このため、生活道路の先はほぼ原生林に近いヒグマの生息環境がある。小学校と中学校もあり、生活道路は学童の通学路と重なる。
この若グマは、発見者に愛想をふりまき(ここは私の主観)、写真にも撮られ、ゆっくりと森に入っていった。証拠万全である。
会議ではこんなやりとりが…。
「親離れして、小型のヒグマであまり人を恐れていないようだ」
「あそこは通学路なので危険だ。見つけたら処分も考えなければ」
「まだ、世間知らずなんだから、いきなりズドンは可哀想だべ。爆竹鳴らして一度、森におっぱらったらいいんじゃないかぁ」
「自然との共生ということもあるし、知床では追い出す試みもしてるので…」「いやいや、縄張りをさがしてウロウロしてるんだけど、森に追い払っても、縄張り持っているオスに追い返されてまた戻ってくるぞ」
「子どもたちに何かあったら大変ですよ…」
「…………」

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射止められた若グマ。親離れの春か。首の周りの茶色毛が特徴であった。

ということで、議論はとりあえず、周辺の林道に檻わなをかけて、猟友会が見回りをし、道路に出てきたら様子次第では処分も、ということになった。
私といえば、怖いもの見たさではないが、丸腰で見回りに参加し、ウロウロ、ソワソワの早朝自然観察(たしかに自然観察だけど、ここは少し違うかも)。
阿寒湖温泉の周辺エリアのほとんどは前田一歩園が管理しているので、長年森づくりにかかわってきた財団職員の方は、ヒグマの動向や傾向も把握している。できれば処分もしないで森で暮らしてほしいのは共通のおもいなのだが、近年は、エゾシカの増加や春熊の狩猟禁止などで個体数が増えているのではないかという見立てもある。
実は、この若グマと私は知らない仲ではなかった。私がたまたまバードウォッチングに行く林道の橋の袂で会っていたのである。彼はこの時、熱心にフキを食べていた。最初は逃げたが、一定程度離れるとまたフキに夢中になった。双眼鏡でしばし、どきどきしながら野生のヒグマの姿に見ほれた。
見回り数日後、同じ場所で双眼鏡を覗いていると猟友会のジープが急停車。
「出たぞ!」「何処に!」「ついて来い!」
私も追っかけ現場に駆けつけた。林道から数十メートル先の倒れたトドマツの陰に黒い塊があった。止めの一撃で、私の目の前で若グマ君は絶命した。

アイヌ文化ではイオマンテ(熊送り)の儀式は最も重要なものとされるが、政府の先住民同化策で禁止された。春熊狩りで捕まえた小熊を人が育て数年後、イオマンテで葬り、天上のカムイとなり、また沢山の食糧とともにキムンカムイ(山の神)として戻ってくるという儀式の主旨は、ヒグマの個体数調整やアイヌのタンパク源確保など合理的な問題解決策でもあったようだ。
阿寒湖アイヌシアター「イコロ」は、アイヌ民族舞踊などアイヌ文化を伝承する専用劇場であるが、三年前からアイヌ民話の創作人形劇づくりをすすめている。第一作目は「ふんだり、けったり熊神様」で、イオマンテを題材として、ちょっと間抜けで愛嬌のあるクマの視点から欲におぼれない生き方をコミカルに描いていた。今年の第二作目「ちっちゃいカムイとゆっくりカムイ」も、荒くれ熊(ウエンカムイ=悪いクマ)を小さな小鳥ミソサザイが中心となって森の仲間で知恵と力を会わせて退治する物語である。

ヒグマとどう共存するかは難題である。地域住民のみならず、観光客の理解も必要である。みんなの知恵が必要である。確かなことは絶対的な解決策はなく、重要なのは相対的な対応をしっかりとすることではないか。<人と自然が共生>とは言っても、命のやりとりがどこかで生まれる。
この若グマの件を契機に、学校ではクマの学習会が開かれた。ヒグマの習性を知る、ヒグマの事情も知る、ヒグマの存在が自然のなかで果たしている役割など思いを巡らせることも共生関係をつなぐ隣人としてのエチケットではないだろうか。
そうでなければ、あの若グマはうかばれない。

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イオマンテで人間の姿になって天上へ
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阿寒町布伏内のコタンでのイオマンテ(提供 千家盛雄氏)

 

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新作人形劇「ちっちゃいカムイとゆっくりカムイ」。こちらのクマは赤い悪魔?でも、ちょっと可哀想(5月から10月末まで、土・日、祝日午後1時から阿寒湖温泉アイヌシアターイコロにて上演)

 

 

これぞ総合芸術、進化する人形劇の世界

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皆で荒くれ熊退治。熊もちょっとかわいそうな…。

 

人形劇といえば子ども向けというイメージもあるが、人形浄瑠璃や東欧の人形アニメ、アジア各地の人形劇など大人から子どもも楽しめる総合芸術というのが私の印象。3月21日に阿寒湖アイヌシアターで開催された「アイヌの伝承 語り人形劇フェスタ」に出向きました。アイヌシアターイコロでは昨年から人形劇に取り組み、昨年の『ふんだりけったり熊神様』に続き、今年の演目『ちっちゃいカムイとゆっくりカムイ』が上演されました。これが、人形はもとより、影絵あり、映像あり、吹流しあり、イコロのステージをふんだんに使い、まさに総合芸術の魅力満載でした。お話は山本多助さん(阿寒湖にもいたエカシでアイヌ文化伝承者)の『カムイ・ユーカラ アイヌラックル伝』の「ミゾサザイの神が語った話」で、巨大な荒くれ熊を小さいミソサザイが知恵と勇気で立ち向かい、サマイクルの神様や森の鳥たちもそれぞれの力を合わせて退治する勧善懲悪の話です。大人たちにも子どもにもわかる教訓があって、デジタル表現の凄い映像に見慣れた私には、アナログの小さな舞台でもこれだけの世界観を表現できるのだと、まさにこの舞台のあり様が物語の世界とリンクしているかのような感動をおぼえました。
ゴールデンウィークから10月末まで、土・日・祝日の午後1時からの公演だそうです。
ミソサザイは日本最小クラスの小さな鳥ですが、阿寒川や湖岸の岩礁部で繁殖しています。5・6月には驚くほど大きなさえずりが阿寒の森に響きます。是非、一度現物も人形劇と一緒にご覧下さい。阿寒ならではの野鳥観察ですね。

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サマイクルの神と森の鳥たちの作戦会議
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演出の燕座さんと出演者たちの舞台挨拶
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阿寒湖アイヌシアターイコロは年中無休でアイヌ民族舞踊やアイヌ文化の伝承公演をおこなってます
カムイユカラ
平凡社から文庫本で読める原作。ユーカラの世界。

 

冬の湿原ドライブにて

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よく見ると耳や首に発信装置らしいものが取り付けられている。周辺の樹木は外皮を食べつくされている。
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オオワシが目に付きました。シカの死体を狙っている。
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フクロウは雄より雌が大きいので目を開けたほうが雌かなぁ?

ガイドの仲間たちと冬の釧路湿原を一周ドライブしてきました。今年の冬は周期的に荒天降雪が続き、例年は晴れて寒さが続く道東地方も例年にない積雪量に人も生物達も苦しめられているようです。釧路湿原はぐるっと来るまで外周部を回ることが出来ますが、なかでも鶴居からコッタロ湿原を抜けて釧路湿原の東側に位置する塘路地区までの道路は湿原のど真ん中を突き抜ける道路です。防寒服を着たようなシカがいたのでよく見ると移動情報収集の通信装置をつけられているようです。シカの数はとても多くて低木の樹木は外皮を食べられてしまっています。また、オオワシが多く、オジロワシはあまり目にしませんでした。塘路湖周辺も湖が開けたところが点在しており、ヒシクイ又はコクガンらしい群れが休んでいました。エゾフクロウのように眠くなるほどの穏やかで暖かい曇り日の湿原探訪でした。 

旬のシシャモはどんな味?

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シシャモはアイヌ語でスス・ハム(柳の葉っぱ)が語源

晩秋から初冬にかけての一週間ほど、釧路川にシシャモが帰ってくる。このシシャモを捕獲して、人工孵化させる事業がシシャモの安定した漁獲量を支えている。
三十年ほど前、市役所の魚揚場に勤務していた頃、一度、この仕事を手伝わさせていただいた。謙虚な言い回しには訳がある。深夜に網をかけて遡上するシシャモを一網打尽にするのだが、私の仕事は引き上げた網に引っかかっているシシャモを外す役目で、結局、集めたシシャモはお駄賃替わりにいただいてしまったのだ。その時の一夜干しの美味しさは今も記憶に残っている。
釧路市漁協でこのシシャモ増殖事業を手がけた工藤虎男さんは随筆家としても知られた方だが、水産現場の視点で釧路の魚のお話を執筆いただいた『釧路港味覚の散歩みち』は、今でも釧路新書のロングセラーだ。そのなかで、グルメ番組のレポーターが旬のシシャモの取材で、脂がのっていて旬のシシャモは旨い、といわれ、がっかりしたというくだりがある。工藤氏曰く、旬のシシャモの味わいは、少し脂分がぬけて、独自の風味と淡白さが際立つところであり、どうやら都会のカペリン(カラフトシシャモ)の味になれた、レポーター氏には、旨み=脂がのっている、との数式が美味の表現パターンになっていたのかもしれない。
私の味覚も、はたしてシシャモの風味や味わいを感知する感覚が残っているだろうか。
今年も旬のシシャモを味わえる幸せを噛み締めたい。

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捕獲事業の様子を伝える新聞記事。寒いよ~
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釧路の魚の味自慢が魚河岸の現場から伝わります